「Webサイトのコンバージョン率(CVR)を改善したいが、どこから手をつければいいか分からない」「新しいデザインやキャッチコピーを試したいが、本当に効果が出るか不安だ」
デジタルマーケティングや事業戦略を担当する方なら、一度はこうした課題に直面したことがあるのではないでしょうか。
勘や経験則に頼ったWebサイト改善は、多大なコストと時間をかけたにもかかわらず、成果につながらないリスクを伴います。そこで重要になるのが、データに基づいて客観的に施策を評価する「ABテスト」です。
本記事では、ABテストの基本的な概念から、具体的な実施手順、そして成果を最大化するための4つの重要なポイントまでを詳しく解説します。
ABテストとは?
ABテストとは、Webサイトやアプリ、メルマガなどの特定の要素において、AパターンとBパターンの2つ(あるいはそれ以上)を用意し、どちらがより高い成果を生み出すかを実証的に検証する手法です。
たとえば、ランディングページ(LP)に設置する資料請求ボタンのデザインをAパターンとBパターンの2種類用意し、ユーザーをランダムに振り分けて表示します。
一定期間テストを行い、「Aパターンの方がクリック率やCVRが高い」という結果が出れば、Aパターンを本採用します。
このように、実際にユーザーがリアクションしたデータに基づいて、最適なデザインやキャッチコピーを選択するのがABテストの基本です。
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ABテストが重要な理由
なぜデジタルマーケティングにおいてABテストが不可欠なのでしょうか。
その大きな理由は、WebサイトやLPの設計・改善を、勘や経験による判断から脱却して「データ」を基準にできるためです。
「このデザインの方が格好良いから」といった感覚的な判断ではなく、「実際にどちらがユーザーに選ばれ、成果につながったか」という事実(データ)を基に、Webサイトを継続的に改善していくことができます。
そのためユーザー視点でUI・UXを改善できるようになり、最終的にはWebサイトのCVRを向上させられます。
こうしたことから、CVRを最大化して競合優位性を確立するために、デジタルマーケティングにおいてABテストの重要度が高まっています。
ABテストの対象ページ
ABテストを行うのはWebサイト上のあらゆるページが対象となり得ますが、特にコンバージョンに直結するページや、アクセス数が多いページから優先的に行うのが効果的です。
- ランディングページ(LP)
- トップページ
- 商品詳細ページ
- 資料請求・お問い合わせフォーム
- 会員登録ページ
- カート(購入手続き)ページ
- メールマガジン
これらのページは少しの改善でも全体のCVRに大きなインパクトを与えられる可能性があるため、ABテストの対象として最適です。
ABテストを行う3つのメリット
ABテストの導入によって、企業は具体的にどのようなメリットを得られるのでしょうか。主な3つのメリットを紹介します。
Webサイトの部分改善に役立つ
Webサイト全体をリニューアルするには、莫大な費用と時間、そして多くの人員が必要です。
さらに、リニューアルが必ずしも成果につながるとは限らず、むしろCVRが低下してしまうリスクさえあります。
ABテストであれば、サイト全体ではなく「ボタン」「キャッチコピー」「メインビジュアル」といった特定の部分だけを対象に改善を進められます。リスクを最小限に抑えながら、より成果につながる改善を積み重ねていくことが可能です。
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低コストかつスピーディー
上記とも関連しますが、ABテストは大規模なリニューアルに比べて開発工数や費用を大幅に抑えて実施できます。
特定の部分のみ比較するためWebページ全体を変更する必要がなく、最低でも2パターン用意すればすぐに始められるためコストも時間もかかりません。
近年は、専門的なプログラミング知識がなくても、管理画面上で直感的にテストパターンを作成・実行できるABテストツールが多数存在します。
こうしたツールを活用すると、プログラミング知識のないマーケティング担当者でもスピーディーに施策を実行し、改善サイクルを回すことが可能です。
検証結果が他施策に展開できる
ABテストで得られた知見は、該当ページの改善だけに留まりません。
たとえば「『無料』というフレーズよりも『0円』という表現の方がクリック率が高い」という事実が判明すれば、その事実を勝ちパターンとしてナレッジ化し、Webサイトの他のページにも応用できます。
さらに、バナー広告、リスティング広告の広告文、メールマガジンの件名など、他のマーケティング施策にも横展開できるため、ABテストはWebサイトを超えたマーケティング活動全体の最適化に貢献します。
ABテストの種類
一口にABテストと言っても、その検証方法にはいくつかの種類があります。
代表的な4つの種類を理解し、目的に応じて使い分けましょう。
同一URLテスト
現在、多くのABテストで主流となっている方法です。ABテストツールでも、この方法が用いられているケースが多いでしょう。
一つのURLにアクセスしてきたユーザーに対し、アクセスしたデバイスやブラウザなどに応じてAパターンまたはBパターンを出し分けます。
URLの違う別々のページを用意する必要がなく、実装も容易なため最も一般的に行われるテスト手法です。
複数ページテスト
Webサイト内の複数ページを改善する際に用いられる手法です。
たとえば、商品検索ページ>商品ページ>購入フォームという複数ページの遷移を分析できます。
Webサイト全体のUI・UXを向上させられる一方で、複数ページを用意する必要があるため設計や実装が複雑になります。
データ分析も高度なスキルが求められるため、ある程度のリソースを確保できる状態になってから実施すると良いでしょう。
リダイレクトテスト
AパターンとBパターンで異なるURLのページをそれぞれ用意し、元のページにアクセスしたユーザーをAまたはBのURLへ振り分けて(リダイレクトさせて)テストする方法です。
デザインや構成が大幅に異なるページ同士を比較する場合や、全く異なるドメインでテストする場合などに使用されます。
たとえばLPの大幅リニューアルを検討している際、オリジナルのページのほかに、リニューアル予定のページをリダイレクト先として用意しておきます。
2ページにユーザーをランダムに振り分けてABテストすることで、リニューアルすべきかどうか判断する材料となるでしょう。
多変量テスト
これはAとBの2パターン比較とは異なり、複数要素の組み合わせを同時にテストする手法です。
たとえば、「キャッチコピー(A/B)」と「CTAボタン(A/B)」の2つの要素をテストする場合、
- キャッチコピーA+ボタンA
- キャッチコピーA+ボタンB
- キャッチコピーB+ボタンA
- キャッチコピーB+ボタンB
このように複数パターンを同時に検証し、どの組み合わせが最も成果が高いかを発見できます。ただし、検証パターン数が多くなるため、十分なアクセス数(サンプル数)が必要となります。
ABテストの実施手順
効果的なABテストは、正しい手順に沿って計画的に実行する必要があります。本章では基本的な4つのステップを解説します。
①ターゲットと目的の明確化
まず、「誰に(ターゲット)」「何を達成してほしいのか(目的)」を明確にします。目的が曖昧なままテストを始めても、正しい評価はできません。
目的は「資料請求率」「メルマガ登録率」「アクセス数」といった具体的な指標として設定することで、その後のプロセスがスムーズになります。
②データに基づいた仮説立て
次に、設定した目的を達成するための「仮説」を立てます。
たとえば「資料請求ボタンのサイズを大きくすると、クリック率が向上するのではないか」という。
重要なのは、「何となく」ではなく「データ」に基づいて仮説を立てることです。
アクセス解析ツールやヒートマップツールを活用し、「このページから資料請求ボタンをクリックする割合が低いから、ボタンのサイズを変えれば改善するのではないか?」といった根拠のある仮説を導き出しましょう。
③ABテストの実施
仮説に基づき、Aパターン(オリジナル)とBパターン(改善案)を作成してテストを開始します。
JavaScriptなどを活用するとテストを構築できますが、より効率的に実施と分析を行うためにはABテストツールの活用がおすすめです。
ツールを活用する際には、トラフィックの割り当て(Aに50%、Bに50%など)、テスト期間、コンバージョン地点の計測設定などを正確に行う必要があります。
④結果の分析・PDCAサイクルを回す
テスト終了後は結果を分析します。AとBのどちらが優れていたかを確認するだけでなく、「なぜその結果になったのか」を深く考察することが重要です。
また、サンプル数が少ないと結果の信頼性が低くなるため、十分なサンプル数で検証できているかも確認しましょう。
分析内容を基に、勝ちパターンを本採用して実装します。
また、負けパターンの結果から得られた知見を基に、次の仮説を立てて新たなテスト(PDCA)につなげます。ABテストは一度きりではなく、継続的に回し続けることで効果が最大化されます。
関連記事:WebマーケティングでのPDCAサイクルの回し方とは?施策ごとに詳しく解説
ABテスト5つの比較要素
CVR改善のためにABテストを行う際、特に成果に直結しやすい5つの比較要素を紹介します。
①ファーストビュー
ファーストビューとは、ユーザーがページにアクセスした際に最初に表示される領域です。
スクロールせずに見える範囲のため、ユーザーはここで瞬時に「自分に必要な情報があるか」を判断します。
そのため、ファーストビューの訴求力が弱いと、離脱のリスクが高まります。
ファーストビューでは、メインビジュアル(画像や動画)や、重要なキャッチコピーなどがテスト対象となります。ABテストを経て、より効果的なファーストビューへとブラッシュアップしましょう。
②導線設計
ユーザーをコンバージョン(資料請求や購入など)までスムーズに導くための「通り道」が導線設計です。動線設計が適切でないと、以下のようなリスクを招きます。
- 購入の意志があるにもかかわらず、購入ページにたどり着けず離脱してしまう
- リンクが多すぎてユーザーが混乱してしまう
- 外部リンクをクリックしてしまい、別サイトへ遷移してしまう
具体的には、グローバルナビゲーションのメニュー項目、サイドバーのバナー配置、記事下の内部リンク、CTAボタンの位置などを変えながらテストを行います。
ユーザーの回遊性を高め、目的のページへ誘導できる確率が高いパターンを採用します。
③タイトルやキャッチコピー
ユーザーの興味を引きつける言葉は非常に重要です。キャッチコピー次第で、ユーザーがその先も読み進めるか、ボタンをクリックするかが変わります。
「どのような切り口で訴求すれば響くのか」「どのような言葉を使えばクリックしたくなるのか」など、ページのタイトルや見出し、ボタン周りのマイクロコピー(短い文言)などを比較検証します。
また、コピーだけでなくテキストのサイズや色、フォントなども比較すると、より効果的なパターンが見つかるでしょう。
④CTAボタン
CTAボタンは、ユーザーに具体的な行動(クリック、登録、購入など)を促すための要素のため、CVRに最も直結する部分です。
たとえば、購入ボタンや資料請求ボタン、お問い合わせボタンなどがCTAボタンに該当します。
CTAボタンをABテストする際には、以下のように多角的な視点が求められます。
- 色:目立つ色か
- 文言:ユーザーの行動を促せる言葉か
- サイズ:目立つ大きさか
- 形状:クリックしやすい形か
- 位置:ユーザーの目線が止まる場所にあるか
これらの要素をABテストし、最適なCTAを探ります。
⑤フォーム入力画面
せっかくユーザーがフォームまでたどり着いても、項目が複数あって入力が面倒だったり、設問がわかりにくくて入力できなかったりすると、最後の最後で離脱してしまいます。
そのため、ユーザーが快適に入力できるようなフォームに改善しなければなりません。これを「EFO」(入力フォーム最適化)と言います。
フォーム入力画面のABテストでは、入力項目の数、必須項目の分かりやすさ、エラー表示の親切さ、ボタンの配置などをテストします。また、ページ内でフォームを設置する位置によってはユーザーの目に留まりにくくなるため、目立つ工夫をすることが重要です。
関連記事:フォームマーケティングとは?メリットとおすすめツール・サービス8選
ABテストの効果を最大化するための4つのポイント
ABテストをただ実施するだけでは、期待した成果は得られません。
テストの精度を高め、効果を最大化するために不可欠な4つのポイントを押さえておきましょう。
①検証は同時期・同一要素に絞って行う
テストは必ず同時期に行う必要があります。
たとえば、Aパターンを今週、Bパターンを来週テストした場合、結果の差が「パターンの優劣」によるものか、「単なる時期的な要因」(セールの有無、曜日の違いなど)によるものか判断できません。
また、一度のテストで変更する要素は原則一つに絞り込みましょう(※多変量テストを除く)。
見出しとボタンの色を同時に変えてしまうと、結果が変わった場合に「見出し」と「ボタンの色」のどちらが要因だったのかを特定できなくなります。
②サンプル数を一定以上確保する
テストの信頼性を担保するために、統計的に意味のある結果(統計的有意性)が得られるだけのサンプル数が必要です。
サンプル数が少なすぎると、たとえBパターンが勝利したとしても、それが「たまたま運が良かった」だけの結果である可能性を否定できません。
Webサイトの場合は、最低でも2,000以上のサンプルが必要とされています。しかし業界やサイト規模によってはなかなかサンプル数が集まりにくい場合もあるため、テスト期間を延長するのも一案です。
③2週間以上テストを行う
サンプル数とも関連しますが、テスト期間も重要です。
たとえば、BtoB向けのWebサイトであれば平日のアクセスが多く、BtoC向けであれば週末にアクセスが集中しやすくなるなど、ビジネスの特性によってユーザーの行動パターンは曜日や時間帯で変動します。
こうした変動リスクを最小限にし、データの偏りをなくすためにも、最低でも1〜2週間のビジネスサイクル(例:月曜〜日曜)を含む、2週間以上の期間でテストを行うことがおすすめです。
④ユーザー行動と数字を基に判断する
テスト結果を評価する際、「自分はこちらのデザインBの方が好みだから」といった主観(バイアス)を入れてはいけません。
たとえ自分の好みでなかったとしても、客観的なデータがAパターンの方が優れていると示しているのであれば、Aを採用するのが正しい判断です。
また、CVRの数字だけでなく、ヒートマップツールなどを併用し、「なぜその数字になったのか」という背景にある「ユーザー行動」も合わせて分析することで、より深い洞察が得られます。
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まとめ
ABテストは、勘や経験といった主観的な判断を排除し、データに基づいて「より成果の出る選択肢」を客観的に見つけ出すために有効な手法です。
本記事ではWebサイトやLPを想定した内容をメインに紹介しましたが、メルマガでも実践できる手法のため、デジタルマーケティングの効果を高めたいのであれば積極的に試してみましょう。
今回紹介した手順やポイントを参考に、まずは小さな改善からでもABテストを導入し、継続的なPDCAサイクルを回すことで成果を高めていくことが重要です。
なお、自社で得られた個別の改善データも重要ですが、それを「市場全体の統計トレンド」と照らし合わせることで、施策の精度はさらに高まります。
自社の立ち位置を客観的に把握し、次の戦略を立てるヒントとして、最新の市場データもぜひご活用ください。


















