顧客ロイヤルティを高めれば、事業の中長期的な安定と成長を実現することが可能です。
顧客に選ばれる企業は共通して顧客ロイヤルティが高いとされています。では、どうすれば顧客ロイヤルティが高まるのでしょうか。そこで注目されているのがCX(カスタマー・エクスペリエンス)です。
今回はCXとは何か?導入するとどのような効果を企業へもたらすのか、具体的な事例もふまえながら見ていきましょう。
CX(カスタマー・エクスペリエンス)とは?
CX(カスタマー・エクスペリエンス)とは、顧客(カスタマー)が商品やサービスを認識してから、実際に購入にいたるまでの一連の流れにおける全ての体験のことを意味しています。
顧客経験価値とも呼ばれており、その商品、そのサービスへの価値だけではなく、心理的・感覚的な価値も含まれます。
CXが必要になってきた背景とは?
CXが何故重要な指標として認識されるまでになったのでしょうか。
その背景として上げられるのがインターネット技術の発達です。
以前までの時代では、モノを作り、テレビや雑誌などでインパクトある広告をうてば売れる時代でした。
しかし、インターネットの発達やスマホの普及により、個人がその商品やサービスに関して取得できる情報が格段に多くなりました。
たとえ企業側の広告を見ていなかったとしても、現代の人は欲しい情報はいつでも自分から手にいれられるようになっています。
欲しい情報やサービス、モノはすぐに手に入れられるようになってきていますので、「体験」に対する価値が高まっているのです。
例えば、スターバックスはCXで有名な企業とされています。
単にカウンターで注文を受けたコーヒーを顧客に提供する喫茶店ではありません。
こだわったコーヒー、居心地の良いテンポ、適切なスタッフの対応、これら全てがスターバックスのCXです。
CXの高い企業は自然と口コミが広がります。
CXが企業に及ぼす影響とは?
オラクル社の調査(カスタマー・エクスペリエンスに関するグローバルの調査報告書)によると、CXの質の低さが理由でブランドを乗り換える顧客は89%にも上っていることが示されています。
参照:2011 Customer Experience Impact Report – Consumer and Brand Relationship
また、ある調査では一貫性のあるCXが提供できていないために、年間の損失額は売上高の20%に上っているという結果もあります。このように非常に重要な指標として企業では認識されつつあります。
混同しやすい用語 CS・UXとの違い
カスタマーエクスペリエンスを理解する上で、混同されがちな「顧客満足度(CS)」や「ユーザーエクスペリエンス(UX)」との違いを明確にしておきましょう。
1. CXとCSの違い:「点」と「線」
CXとCSの大きな違いは、評価の範囲にあります。
顧客満足度(CS)は、顧客が特定の時点や部分的な接点で感じる満足度に焦点を当てます。
たとえば、「料理の味は美味しかった」「サポート担当者の対応は親切だった」というように、商品やサービス、あるいは特定の対応といった「点」での評価を指します。
一方でカスタマーエクスペリエンス(CX)は、顧客がその企業やブランドを知ってから、購入し、利用し、問い合わせをするまでの全ての一連の流れ(線)における、心理的・感覚的な総合的な体験を指します。
CSはあくまでCXを構成する要素の一つであり、CXはCSよりもはるかに広い、企業活動全体に関わる概念だ、という違いがあります。
関連記事:顧客満足度(CS)とは?向上のポイント・ツール7選と具体事例
2. CXとUXの違い:「利用時」と「すべて」
CXとUXの違いは、対象となる範囲の違いにあります。
ユーザーエクスペリエンス(UX)は、主に製品やサービスを「利用している間」の体験、特に「使いやすさ」や「快適さ」を指します。
例えば、ウェブサイトやアプリがスムーズに操作できるか、ボタンの配置は適切か、といったデジタル製品の「利用時」に焦点を当てたものです。
一方でカスタマーエクスペリエンス(CX)は、UXよりも大きな範囲を指します。
製品の利用時だけでなく、広告を見た時、お店を探した時、問い合わせをした時、そして利用後のサポートなど、企業とのすべての接点での体験を含みます。
つまりUXはCXの一部であり、CXが企業全体の体験を指すのに対し、UXは製品単体の使い心地という特定の側面に特化している、と理解することができます。
CX設計のポイント
カスタマー・エクスペリエンスは「顧客体験」ですので、購入した商品やサービスそのものの価値だけではなく、商品やサービスを購入する際、もしくは購入して使用した体験も含めた満足度を価値として評価しています。
この考え方が生まれたのは2000年前後と比較的新しいですが、近年では企業が積極的に顧客体験に対して投資を行っています。具体的にどのような体験を価値として提供しているのでしょうか。
- 知覚経験価値
人間の五感に訴える形で経験価値を高めます。例えば、店内にゆったりと流れる音楽や、オフィスの入り口にリラックスする香水、実際に触れてみたり、試食してみたりできるようなサービスです。 - 感覚的経験価値
人間の感情的な部分に訴える形で経験価値を高めます。化粧品を購入する際に美容部員が商品の説明と美容へのアドバイスなど、商品と付随するサービスを組み合わせて価値を高めるものです。 - 創造的経験価値
知性や好奇心に訴える形で経験価値を高めます。商品の誕生した背景や隠されたコンセプト、○○という企業理念のもの誕生した商品、というように製品やサービスの経験価値を高めます。 - 肉体的経験価値
人間の行動や身体に訴える形で経験価値を高めます。近年男性のヒゲ脱毛の広告が増えてきましたが、「毎日の朝の準備の時間が10分なくなる」など新たなライフスタイルの提案を通じて、サービスの価値を高めます。 - 準拠集団
人間の組織帰属意識に訴える形で経験価値を高めます。Instagram等で「みんな身に着けている商品」、WEBでの口コミなどを通じて商品やサービスの価値を高めます。
この5つのパターンで顧客体験が出来るように設計を考え、マーケティング・営業・間接部門など組織全体が協力してCXを高める設計をします。
CX向上の成功事例
海外の女性用アパレルECサイトの成功事例を紹介します。
アパレルは実際の店舗であれば、販売員が顧客の思考や似合うファッションの提案、相談をすることができますが、WEB上だと写真やサイズの数値など自分で取得可能な範囲の情報だけで判断しなければなりません。
また口コミサイトなどで他社のブランドにすぐ顧客を奪われたりしてしまい、ビジネス的な損失がありました。
この問題に対応するためにWEBサイト上でリアルタイムに販売員と相談できる、ライブチャット形式の仕組みを導入しました。
WEBサイト上で顧客と販売員とのやりとりが可能となったため、実際の店舗のサービスに近くなり、顧客ロイヤルティの獲得に繋がっているようです。
CXを向上させる3つのフェーズ
CXを向上させるためには、段階的にフェーズを分け、体系的かつ継続的に改善する仕組みを設けることが大切です。
そこで、3つのフェーズに分けたCX向上の考え方を紹介します。
フェーズ1:体験の設計図を作る
最初のフェーズでは、データ分析を通じて改善対象を明確にすることが目的です。
まずは顧客満足度調査やNPS®(ネット・プロモーター・スコア)といった定量データに加え、問い合わせ履歴やSNS上の声(VOC)などの定性データを収集し、顧客が抱える不満や期待を客観的に把握しましょう。
この分析結果に基づき、理想的な顧客像であるペルソナを設定します。
ペルソナが設定できたら、自分たちの顧客が商品やサービスを認知してから利用するまでの全ての接点を時系列で可視化したカスタマージャーニーマップを作成します。
このステップにより、顧客の体験のどこにボトルネックや望ましい体験が存在するのかを把握するための設計図が完成します。
関連記事:NPSとは?意味や顧客のロイヤルティを高める指標について解説
フェーズ2:課題の改善とKPIの設定
次のフェーズでは、ジャーニーマップによって明らかになった課題を解決する仕組みを作りましょう。
まずは、顧客への影響度と実行可能性を考慮し取り組むべき優先課題を特定します。
その上で「顧客満足度を○ポイント改善」、「解約率を○%低減」といった具体的かつ測定可能なKPIを設定しましょう。
CXの品質は特定の部署だけでは維持できないため、マーケティング、営業、サポートなど、顧客との接点を持つ全部門が連携し改善するための施策を立案・実行することが、重要です。
関連記事:KPIとは?基本から設定方法、業種別の指標事例まで徹底解説
フェーズ3:継続的な改善サイクルを確立する
CX向上は一度の取り組みで完結するものではなく、市場や顧客ニーズの変化に対応するための継続的な活動が求められます。
施策実行後は、設定したKPIや、顧客ロイヤルティを測るNPS®などの指標を定期的に観測し、施策の効果検証を定期的に行いましょう。
検証結果を単なる評価で終わらせず、「なぜこの結果になったのか」という要因分析を深掘りし、その学びを次の改善計画に反映させるPDCAサイクルを確立・定着させます。
継続的に改善を繰り返すことで競争優位性を生み出し、結果的に顧客との長期的な関係性を構築する鍵となります。
関連記事:PDCAサイクルとは?業務改善につながる回し方のコツやOODAとの違いを解説
顧客体験価値をマネジメントするCXMの必要性
CXM(カスタマー・エクスペリエンス・マネジメント)は顧客体験マネジメントの略語です。
CXMは、顧客が自社の商品やサービスを購入するプロセスや購入後をシミュレーションするなど、顧客ロイヤルティ向上にかかわる一連の取り組みを、全社的に統合管理していくことを目的としています。様々な分析から適切なアプローチ方法を確立することを目指します。
例えば、顧客のカスタマージャーニーを分析して、アクセスしてきた顧客に対して最適なWEBコンテンツを表示してあげるような工夫が必要です。
現在困っていることの情報がすぐに手に入るのであれば、購入の可能性は高まりますし、他社へ離反されることも防げます。
CXM導入のポイント
優れたサービスがあるがアフターフォローが悪かったり、機能が充実した商品を開発したが販売員の知識が不足しているなど、サービスや製品の一部分だけが優れていても顧客体験の価値は高まりません。
CXの価値を高めたい場合は、全社的な改善を行う必要があります。
そのためには短期的な収益向上を考えるのではなく、長期的な視点で顧客と向き合い日々の改善活動を全社的に共有し、何が課題なのか、何が顧客のためになるのかを正しく把握する必要があります。
隣の部署が何をしているのかわからない、それは向こうの組織の課題だから関係ない、というような企業内の組織風土であれば組織自体を大きく改善しなければいけません。
終わりに
今回はCXの考え方、言葉の意味、成功した事例を紹介しました。
顧客に選ばれることが、企業が成長し、生き残るために必要なことです。顧客が求めているのは良い商品、良いサービスだけではなく、買って良かったと思われる「心地のよい体験」です。
今回の記事をヒントにして取り組める部分から実践してみましょう。





















